上海の土山湾孤児院は、1864年、イエスズ会のフランス人宣教師Joseph Gonnet(中国名:鄂爾璧)によって建設された。孤児院は、1960年頃に閉鎖されるまで、孤児たちに教育をほどこすかたわら、併設する工房で、西洋画や木彫、彫金、印刷などの技法を教えた。孤児たちが作製したorphans were 工芸品は、教会で使用されたほか、おもに外国人向けに販売された(中尾 2017:7)。土山湾孤児院は、現在、土山湾博物館として一般に公開されている。土山湾孤児院で製作された木彫りの風俗人形は、土山湾博物館には残されておらず、まとまった形で保管されていることが確認できるのは、フランスと日本だけである。フランス人海軍中将Jules le Bigotが1938年に購入した109点の人形は、“Shanghai: scènes de la vie en Chine: les figurines de bois de T'ou-Sè-Wè” (2014) で紹介されている。同書では、資料ごとに、その写真が関連する現地の風俗写真とともに掲載されている。他方、1930年に、天理教第二代管長の中山正善が土山湾孤児院で購入した108点は、現在、天理参考館に収蔵されている。Bigotが購入したものも、中山が購入したものも、大きな木箱に一揃いの人形として収められていた。他に存在が知られているのは、東京の吉徳資料室に収蔵されている同種の木彫り人形10点あまりである。いずれも、1933年に人形屋吉徳の十世山田徳兵衛が満洲で購入したものである(龍野市立歴史文化資料館 2003:62-63)。京都大学所蔵の木彫り人形の数量は決して多くはないが、これらの現存資料よりも20年ほど早い時期に購入されている点で注目される。
Christian Henriot, Ivan Macaux. 2014. Shanghai: scènes de la vie en Chine: les figurines de bois de T'ou-Sè-Wè. (安克強, 伊望 2014.《中國民間生活:上海土山灣孤兒院人物木刻》.)Equateurs.